週刊読書人
ここ十数年のあいだ、わが国では所得不平等の拡大や若者における非正規雇用の蔓延など、「格差社会」をめぐってさまざまな実証研究が積み重ねられてきた。
本書の特徴は、何よもホームレスと呼ばれる人々のバイオグラフィに焦点を当てることによって、日本における社会保障制度の「穴」を逆照射している点にある。その分析は、マクロ的視点では見えにくい、排除された人々と社会制度のあいだで繰り広げられてきた相互作用を明らかにしてくれる。
むろん、社会的排除の射程はホームレスにとどまらない。日本社会全体に不安定化が浸透しているとすれば、社会的排除という視点からいっそう広範な人々の困難を捉え直す試みが、これからの社会科学に共通の課題となるだろう。
ともあれ、本書は社会的排除についてのハンディな案内書でありながら、日本社会の一断面を切り取る視点を明快に提供してくれる。その点、万人に広く推奨できるものといえよう。
(ひぐち・あきひこ氏=法政大学准教授・社会学専攻)