ITの活用と視覚障害者
ホームページ(HP)作成の仕事を請け負う視覚障害者がいる。頭の中で完成図を描き、パソコンの音声を頼りに画面を組み立てていく。視覚障害者のインターネット利用率は一般より高いという調査結果もあり、ネットのバリアフリー化は急速に進む。「失われた感覚」を補うパソコンが、視覚障害者の働く場も生み出している。
■画面の文字、音声で拾う
神戸市灘区の熊沢明さん(24)は、視覚障害者を支援するNPO法人神戸アイライト協会(同市中央区)でパソコンを学びながら、HP作成の仕事を請け負っている。
「スタート」「メニュー」「インターネット」――。
マウスの代わりにキーボードの矢印キーを押して画面上のカーソルを動かすと、音声ソフトを組み込んだパソコンが画面上の文字を読み上げる。1秒間に10文字以上。目で追うのと大差はない。
HP作成では、まず頭の中で完成図を描いてみる。配色は健常者にしてもらうが、デザインのひな型や枠の中へ文章を流し込むソフトは自分で開発した。昨秋、兵庫県視覚障害者福祉協会のHPを初めて手がけた。文字と背景の明暗を際立たせるなど、「弱視の人への配慮もなされ、こちらの提案以上のものができた」(同協会の惣田憲司事務局長)と評価された。
体重900グラムの未熟児で生まれ、生後3週間で視力を失った。小学生の頃から母親らにテレビ画面を読み上げてもらい、キャラクターの行動を自分で選択しながら進むロールプレイングゲームに夢中になった。神戸市立盲学校を卒業後、視覚障害者に情報工学を教える筑波技術短大(現・筑波技術大)でソフト開発を学んだ。実際に見たことのないパソコン画面は「左上に写真」などと周囲の人に説明してもらいながら学んだ。
HP作成後も新規情報を更新したり、不具合を修正したりして顧客の要望に応える。依頼はまだ1件だが、熊沢さんは意欲的だ。
「自分が障害者なので、障害者にとって使いやすいHPづくりには自信がある。少しでも仕事を増やしたい」