第78号 2011.01
1.論文:国民皆保険解体論の系譜とその顛末
(「二木教授の医療時評(その84)」『文化連情報』2011年月1月号(394号):14-18頁)
はじめに-国民皆保険解体論の11年ぶりの復活
少し古い話しで恐縮ですが、昨年6月に「国民皆保険との決別」を正面から主張した本が出版されました。それは、長坂健二郎氏(元萬有製薬社長)の『日本の医療制度』(1)です。長坂氏は、健康の自己責任論および医療への市場原理導入論の立場から、「国民皆保険の建前を改め、本当に困った人にだけ救いの手を差し伸べ」、「それ以外の人は民間保険等で自らを守」る「セーフティネット型」に移行することを提唱しました。長坂氏は、この改革を3段階・7年間で実施するための青写真も示しました。実は、長坂氏が国民皆保険解体を主張するのは今回が初めてではなく、後述するように1999年(同書出版の11年前)にも同様の主張をしていました。
私自身は長坂氏の主張は荒唐無稽で実現可能性はまったくないと判断しています。しかし、今後、財政危機がさらに悪化し、(民主党)政権が公的医療費の財源を確保できなくなった場合には、このような国民皆保険解体論が勢いを増すと心配する方もおられるようです。そこで、本稿では、日本における国民皆保険解体論の系譜とその顛末を簡単にふり返ってみることにしました。
*以下略【ブログ管理者】