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P 4269 扇谷秀樹:ソーシャルワーク実践の専門化と科学化

P 4265 に寄せられたコメント6件のうち、2~6件目のコメントは連続した論文なので、まとめておきます。

友愛訪問からエビデンス・ベイスド・ソーシャルワーク
          ・・・そしてリシリエンシーへの着目へ

社会福祉法人山根会 特別養護老人ホーム水の郷 扇谷秀樹

 友愛訪問員(Friendly Visitor)がソーシャルワーカーの前身とされ、以来さまざまな形で、専門職性の確立に尽力してきたことは、周知のことである。おそらく、問題状況に陥ってしまった人にとって、問題についてともに考え、解決を支援してくれたソーシャルワーカーのこの営みは、きっと励みになったに違いない。しかしながら、他の対人援助の分野―医学、看護、その他の分野に遅れて発達したというハンディをソーシャルワークは背負っていたはずである。これまでの歩みは、ひとえに「ソーシャルワーク実践の専門職化と科学化」を目指し、研究が取り組まれたと言い換えても良いだろう。

事実ソーシャルワークは周知の通り、(1)精神医学の氾濫、(2)診断主義と機能主義の対立、(3)パールマンによる折衷主義、(4)システム理論の導入とソーシャルワーク統合化を経て、人と環境の交互作用の複雑さを認識し、そのインターフェイスへの介入を指向してきた。
この歴史を辿る経過の中で、クリティカル・シンキング(批判的思考)が出発点となり、EBSW(エビデンス・ベイスド・ソーシャルワーク)が生まれたのである。クリティカルシンキングは、(A)権威に基づくソーシャルワークへの懐疑、(B)ソーシャルワーカーの行った支援には、いかなる証拠があったのか?等を問題提起した。これにより、実践の証拠を重視するEBSWは、ソーシャルワーク援助方法 の考え方を根底から変化させた。これはソーシャルワークの歴史上画期的なことと言えよう。

さらにリシリエンシー(Resiliency)への注目も、EBSWへの注目がなければ、起こりえなかったことである。リシリエンシーは、ソーシャルワークに関する問題の発生予防を指向するもので、同じ一定の条件下で、ある人は問題状況を招き、またある人は同じ条件下でも、困難を克服し、問題状況の発生を回避している。問題状況を起こしていない人の中に、問題回避要因のエビデンスがあるのではないかを提起している。これはすなわち、従来の発生後のトリートメントに追われ続けたソーシャルワークへ、一石を投じたものと思われる。

このようなソーシャルワークの思考方法の大転換が生じる一方で、ソーシャルワークの研究動向を見ると、海外のソーシャルワークの動向とは異なり、我が国では依然として演繹的な方法によるソーシャルワークの実践研究が行われている。我が国では事例研究は数多く行われているが その知見から得られた理論は生まれていないのではなかろうか。本来なら事例研究が積み重ねられ、一定の知見を理論という形で我々に提示し、ソーシャルワーク研究を志す者が共有すべきであると思われる。これだけ膨大なエネルギーを事例研究に費やし、ソーシャルワーク研究上何も生まれていないならば、それこそ発想の転換を図るべきではないかと考える。これこそが、ソーシャルワークの歴史を概観して得た結論である。

実践現場で働く私は、EBSWの発想を大事にし、利用者側への十分な情報提供を心掛けている。日本にEBSWが提唱されて日が浅く、臨床における応用方法がまだ開発されていないため、その発想を重視するに止まざるを得ない。
また、実践研究の立場からは、同じ条件下で問題状況を回避できている人に着目し、その要因の抽出と分析に心掛けている。研究、実践のいずれの立場に立とうと、調査法の厳密且つ厳格な理解とその必要性を痛感するこの頃である。
by jpflege | 2010-03-28 20:28 | 923 resiliency
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